「や!」
サクラはのんきに手を上げて挨拶する。
この状況が分かってないとは言わせない。
「なぁんか、大変そうだね、リョウ君。大丈夫?」
「って!!! 危ないですよ! サクラさん! 早く逃げてください!」
のほほんと笑うサクラに敵の刃を止めたままリョウは言う。
何故彼がここに・・。
どうしてこの状況が危険だと分かっているはずなのに声をかけるのか。
今ここで声をかけたら巻き添えをくらうのは必須だ。
「でもさぁ、リョウ君、ピンチっぽいし・・・なんか恨み買うことでもしたの〜?」
「しませんよ!! そんな事!!!」
しっかり答えてる自分が・・・切ない。
自分のこの性格に涙が出そうだ・・・。
「じゃあさ、僕が助っ人するよ。ね?それならいいでしょ?」
ええええ!?
「よっと!」
サクラは高くジャンプすると建物の屋根の上に飛び乗った。
すごいジャンプ力だ。
普通の人間じゃ、ここまでは飛べない・・・。
「お前は・・・何だ。」
兵士が口を開く。
「はぁ? 貴方みたいな人に名乗る名前はありませんよってね。」
見るからに不機嫌な声でそう言って、サクラは屋根にしゃがんだ。
一体何をするつもりなんだろうか。
「リョウくーん、危ないから下がって下がって!!」
・・・え?
「じゃないと僕、君を殺しちゃうことになっちゃうよ〜。」
はい!?
のんびりとしたサクラの口調とは対照的に
兵士の刃を止めていたリョウは勢いをつけて、兵士から下がった。
それを見るとサクラは満足そうに笑う。
「OK! じゃあ、いくよ。」
サクラがそう言うと、彼の足元から魔方陣が広がる。
薄い紫色の魔方陣だ。
サクラは兵士に目をやる。
リョウには眼鏡の奥に隠れたサクラの瞳を正確に捉えることは出来ない・・・。
いや、その方が幸いかもしれない。彼の瞳の映っていたのは・・・。
「散れ。」
恐ろしい程の殺気。
自分にしか聞こえない程の小さな呟きと共に兵士の足元が揺れた。
兵士の体が地面に押し付けられる。
リョウは息を呑んだ。
重力の力だ・・・。
兵士に対し、とても大きな重力がかかっているのだ。
・・・・と言うことは、サクラさんも超能力者!?
「お、お前・・・・まさか!!」
兵士が息切れ切れに言う・・・。
その目には明らかに、してやられた!という色がある。
サクラは口元だけ薄く笑うと「それっ!」という小さな掛け声と共にかける力を強くする・・。
一瞬で兵士の体は跡形も無く消滅した。
雑魚が・・・。
こんな力で僕の周りをうろついてるんじゃないよ。
めざわりだ。
この・・・ゴミが。
サクラは暫く兵士が散ったその場を見ていたが、リョウの視線に気づくと笑顔になる。
「リョウくーん、大丈夫だった?」
そう言ってサクラは屋根の上から飛び降りた。
「・・・・。」
リョウはしばらく言葉を失っていた・・。
サクラさんもレオナと同じ超能力者・・?
放心しているリョウに苦笑すると、サクラは服の袖を肩までまくしあげた。
リョウは息を呑む。
老婆が彼に言った言葉が蘇る。
『お前がまず、やるべきこと・・・。
この大陸にはお前と同じ、ZEROを止める存在である人間があと2人いる。
それを集めることだよ。え? どうやって集めるのかって?彼らには共通点があるんだよ。
リョウ。それは・・・・』
『 彼らには体のどこかに、十字架の痣があるんだよ』
サクラの二の腕には7cm位の十字架の痣があった。
「これで、君の旅に僕は必要になったんじゃないかい?」
「・・・・。」
そう言って、サクラはにっこりと微笑んだ。
第十章 〜サクラ舞うとき 後編〜 Fin